現代の食品開発において、味覚センサーは重要なツールとして広く使われています。例えば、フランスのAlpha M.O.S社が開発した電子味覚システム ASTREE は、食品の味を化学的に解析する技術を用いており、食品業界で注目されています。これにより、食品の品質管理や新製品開発が効率化されてきました。その主な利点は以下の通りです。
- 客観的なデータの提供: 主観的な判断が入りにくく、結果が再現性のあるデータとして得られる。
- 短時間での評価: 多数のサンプルを効率よく測定できる。
しかし、その便利さゆえに、味覚センサーを「万能の測定器」として過信し、官能評価の役割を軽視する声も少なくありません。このような姿勢にはいくつかのリスクが伴います。
1. ヒトの感覚を完全に模倣できない
味覚だけでなく、嗅覚や触覚、視覚のほか体性感覚が食べ物の「味」に、さらには心理的要素が「おいしさ」に影響します。センサーでは、これらのヒトの感覚に依存する複合的な要素を把握することができません。
2. 後味や持続性の評価が難しい
「後味」など時間経過による味の変化や余韻といった要素は、直接測定センサーでは測定しきれません。これらは製品の完成度を左右する重要な要因です。
センサー出力は、各味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味など)に対応する特定の成分や特徴量との相関がある場合がありますが、必ずしもそのまま直接的に各味に対応するとは限りません。
以下のように考えるとわかりやすいです。
- センサーの原理
味覚センサーは通常、特定の化学的性質(pH、イオン濃度、分子の種類など)を測定します。これらの測定値は、食品に含まれる成分の量や組み合わせに依存します。そのため、センサー出力は特定の味覚要素と関連付けられることが多いですが、一対一の関係ではない可能性があります。 - 味覚の複雑性
味覚は単純な化学物質の濃度だけでなく、複数の成分が相互作用した結果として感じられるものです。センサー出力を味覚に結びつけるには、通常、センサーの出力を統計モデルや機械学習モデルなどで解析し、味覚との相関関係を見つけるプロセスが必要です。 - キャリブレーションと学習
一般的には、センサー出力を各味と結びつけるために、標準的なサンプル(例:既知の甘味や酸味を添加したサンプル)を使用してセンサーを校正します。このプロセスを通じて、センサーの出力と各味との関係をモデル化することが可能になります。
一方で官能評価は、訓練されたパネリストや一般消費者による主観的な評価です。「まろやかさ」や「バランスの良さ」など、数値化しにくい複雑な感覚を解釈・評価でき、製品開発においては、味覚センサーを用いたデータと官能評価を組み合わせることで、より豊かな味の表現が可能になります。
味覚センサーが提供する客観的なデータと、官能評価がもたらす主観的な洞察を統合することで、消費者に支持される製品を作り出すことができます。それぞれの役割や限界を理解し、両方の利点を活かしつつ補完的に活用していきましょう。